No.a2f1002

作成 1997.1

 

──「湾岸戦争」の舞台裏・下 ──

 

●ところで不思議なことに、湾岸戦争後、アメリカ国防総省は、戦死者数の調査をしなかったことを理由に、イラク兵戦死者の大まかな推定数の公表すら拒否し、機密扱いにしてしまった。

イラク兵の正確な戦死者数を、国防総省がなかなか公表しようとしないために一番困ってしまったのが、アメリカの商務省統計局の「国際人口調査部」だった。なぜならば、1992年度の“世界人口統計”をまとめる上で、戦死者数の推計は不可欠だったためである。


●そこで、ここに勤める人口調査のエキスパートであるベス・ダポンテが、戦争における死傷者の推計方式に関する資料と文献を基に、総計で「15万8000人」が湾岸戦争で死亡したとの報告書をまとめた。

するとその直後に、アメリカ政府はベス・ダポンテの持つ関係書類を全て没収し、職務遂行上の不行き届きを理由に、彼を解雇するという異常な行動に出た。(この事件は1992年3月6日付の『ワシントン・ポスト』で報道されている)。

理不尽な解雇をされた彼は、これを不服として裁判所に訴えているが、今もってアメリカ国防総省は正確なイラクの死傷者数を公表していないという。



●なぜアメリカ政府はイラク側の被害状況を隠すのか?

それは多国籍軍側の死傷者が150人前後しか出ていないのに、イラク側が10万人以上出ていたとなると、アメリカ側が過剰な攻撃を行っていたのではないか、との疑惑が公にさらされてしまうことを懸念したためであろう。イラク側の莫大な死傷者数を具体的に公表してしまうことは、いかに自分たちが異常すぎるほど厳しい報道管制(CNN限定)を敷きながら、その陰で、これでもかこれでもかと言わんばかりに非人道的で圧倒的な軍事力をイラク本土に叩きつけていたかを自白するようなものだ。


●今回の湾岸戦争は様々な最新兵器が積極的に導入され、“ピンポイント攻撃”と称するゲームのような映像が世界中に流されていたのが特徴的であったが、その陰で、旧来のような戦略爆撃機「B52」による戦後最大の猛烈な空爆が展開されていたのである。

このB52による空爆は、わずか1カ月で朝鮮戦争の1年半分、ベトナム戦争の半年分の爆弾(約9万トン)を投下し、一発1000万円のミサイルが夜空を焦がし続けていたのである。当時世界最強と言われた旧ソ連製の最新鋭戦車「T-72」部隊は、なすすべもなく一挙に全滅してしまったほどだ。


●しかも、アメリカの一新聞社がスクープして、テレビ朝日の番組『ザ・スクープ』が報じたところによると、湾岸戦争の際、アメリカ軍が砂漠で塹壕(ざんごう)のイラク兵と民間人数千人を、巨大なシャベルのついた戦車で生き埋めにして“地ならし”していたという。また、最近ではアメリカの最新兵器の一つである、「劣化ウラン兵器(DU弾)」によると思われる奇形児の多発が問題になっているという。

また、湾岸戦争中にアメリカは開発途中の「指向性エネルギー兵器」の実戦使用を強行したとの情報が一部流れているが、マルタ会談の取り決めによって、湾岸戦争を傍観するしかなかったゴルバチョフをはじめとする旧ソ連の指導部は、自国のスパイ衛星か何かで、アメリカの圧倒的軍事力の前に自分たちのソ連製兵器が叩きのめされる現場を見せつけられて、さぞかし震え上がったことであろう。(湾岸戦争直後にソ連はあえなく崩壊した)。



●ところで“アメリカの正義”というスローガンの下で編成された多国籍軍のアメリカ派遣軍の構成を見てみると、人口比では12%でしかない黒人が、湾岸派遣米軍では30%、ヒスパニック系・アジア系・アラブ系などの非白人は全体の40%にも及んでいた。それに、黒人や他の非白人兵士のほとんどは、空軍や海軍ではなく陸軍兵士であり、実際に敵軍と戦火を交じえる最前線に送られていた。

よって、たとえ戦死者が多数出ようとも、その多くは貧民層の有色人種であり、結局、戦わされたのは有色人種と貧しい若者たちであった。ベトナム戦争の時も、黒人や南部の貧しい若者たちが多く死に、戦死者の数だけで5万8000人に上っていた。口の悪い連中の中には、ベトナム戦争を“失業対策”だったと言う者までいるという。


●で、イラクに占領されていたクウェートは24時間で奪還されたわけだが、本当にフセインをクウェートから撤退させるのが目的だったなら、彼が威厳とメンツを保てる交渉による妥協点はあったと、外交や軍事の専門家たちは分析している。しかし、アメリカのとった態度は、最初から“交渉の余地はない”という非人間的なものだった。


●それにしても、アメリカはフセインがクウェートにちょっと手を出しただけで、戦後最大の猛烈な空爆をかけ、イラク国家殲滅ギリギリのところまで破壊し尽くすという派手な“武力制裁”に出たわけだが、国連決議に違反して不法占拠をずーっと続けたり、レバノンでパレスチナ人を無差別殺戮したことのあるイスラエル共和国に対しては、どうして“経済制裁”すら行おうとしないのだろう? やっぱりデメリットが大きいからか?(アメリカ国内の親イスラエル団体が恐い?)アメリカの“正義”って……。



●ところで、1991年9月10日に来日したアメリカの元司法長官ラムゼー・クラークは、渋谷で開かれた「湾岸戦争を告発する東京公聴会」で講演し、アメリカのイラクに対する戦争行為を厳しく非難していた。

彼は湾岸戦争におけるアメリカの軍事行動を「平和や人道に対する犯罪だ」と告発し、アメリカの攻撃で数多くの非戦闘市民が犠牲になったことを以下の見解とともに強調していた。

「注意深く巧妙に市民が攻撃目標にされ、アメリカ軍による殺戮だけが一方的に行われた。〈中略〉11万回の空爆で8万8千トンの爆弾が落とされた。民間人だけで11万5000人から25万人が直接的、間接的なアメリカ軍の攻撃で死んだ……」



●さて、話題を日本に移すが、日本が湾岸戦争の時に支払った90億ドル(1兆2000億円)という大金はどこへ行ってしまったのであろう? 支援金のほとんど全てが軍産複合体のフトコロに流れ込んでしまったと言われているが……。


●しかも、日本の援助金はアメリカの同盟国最大の額であったにもかかわらず、クウェートが戦後に発表した「感謝する国々」という紙面において、ずらりと並べた「戦勝国の万国旗」の中から、日本の国旗だけが故意に除かれていた。他の国は参加したが、日本は参加しなかったという痛烈な皮肉だった。

この時から強く言われ始めたのが「国際貢献」という言葉であるが、日本は莫大な出費をあの恐るべき殺人ショーのために供出させられた上、国際ジャーナリズムの世界で侮辱されたのである。


●湾岸戦争は短期間で終了して、再び軍縮ムードがくるかと思いきや、今度はガリを中心にした地球規模の軍需産業の失業対策事業が始まった。

湾岸戦争によって国連は世界の表舞台に立ったわけだが、湾岸戦争が終結すると同時に、PKF・PKO軍団を強化した壮大な軍事計画を発動し、史上例を見ない規模に膨れ上がった。1991年に和平最終合意文書に調印したばかりのカンボジアに、2万人を超えるPKO軍が派遣され、ユーゴにも1万4000人が派遣された。これはかつて戦乱が続くアフリカのコンゴ紛争に派遣された史上最大軍を上回る数であった。一体、誰がこの大軍の経費を負担するのか?

好戦的なガリがPKOを乱発したおかげで、国連の金庫は1992年の4月末には、早くも20億ドルの赤字を報告し、アメリカとロシアの支払い能力が急落したという理由から、日本とドイツが全世界の軍人を養う方向に圧力が強まっている。



●こんな情勢の中で日本が国連の「常任理事国」になったら、それこそ軍需産業にとっては思うつぼだ。アメリカが戦争の度に“戦争資金”を堂々と日本に請求し始めてくることぐらい目に見えて分かる。

「国連の平和維持活動に貢献しろ」という国際世論をバックに、日本とドイツから吸い上げられた大金が、国連軍の装備という形で、全世界の軍事企業群にどっと流れていくという構図ができ上がりつつあると言われているが、安易な気持ちで自衛隊を海外へ派遣し、しかも武器の携帯を認めていくような日本政府には、独自の世界戦略といったものが無いのであろうか? 今回のアメリカの武力行使に、橋本首相が早々と支持する意向を示しているのを見ると、日本の将来は寒い……。

このまま日本人はどこぞと知れぬ軍事兵器企業群のために、せっせと働く奴隷と化すのか? それとも、自衛隊そのものが国連軍に組み込まれ、本格的に日本人が前線に立たされるという暗黒時代が再来するのか?


●くれぐれもサダム・フセインのような、裏取引によって自国民を苦境に陥れるような“売国奴”には気をつけなくてはいけないようだ。(かつて、アラブ人になりすましてシリア上層部を動かしていた“モサドのエージェント”エリー・コーエンが、素性が暴露された時点でダマスカスで公開処刑されるという衝撃的な事件があったよなぁ……)。



●いずれにせよ、アメリカはいかなる国といえども、アメリカの中東での石油権益を邪魔立てする者に対しては、手段を問わずに排斥してきたわけだが、特に冷戦終結後、ソ連という強敵がいなくなり、アメリカの一極支配の下に世界の“新秩序”を形成することが可能となった今、急速に台頭して来た“国連中心主義”とオーバーラップする形で、自分たちにとって都合のいい世界戦略を展開し始めたわけだ。


●結局、湾岸戦争でアメリカが実証したのは、決して国連を通じての平和外交ではなく、「力の論理」の復活とアメリカ主導による国連運営だったといえるわけだが、世界中に跳梁跋扈している「軍産複合体」という“血に飢えた化け物”の内部事情を見る限り、今後、中東情勢はますます混迷の度を深め、一進一退を繰り返しながらジリジリとイランを筆頭にしたイスラム連合がまとまっていき、これに呼応する形で国連の機能も強化されていく方向に行くものと思われる。

軍産複合体とそれに深く関わっている政治家連中が強い権力を握っている限り、どうも「戦争」という彼らの需要は無くなることがないようだ……。

 

─1996年9月6日─

 

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<参考・推薦文献>

『地球のゆくえ』(集英社)/『赤い楯』(集英社)/『国際情報1991』
(集英社)/『サダム・フセイン』(飛鳥新社)/『最新戦争論』(学研)/
『最新中東論』(学研)/『見えない戦争』(情報センター出版局)


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