ヘブライの館2|総合案内所|休憩室 |
No.a6fhd823
作成 1998.2
●現実の歴史は、人間たちの意図を裏切ってこれといったゴールもなく展開を続けていくが、「聖書の歴史」は最初からシナリオ通りに展開し、「終末」という最終ゴールに辿り着いて終わることになっている。
このシナリオは「ヤハウェ(神)」が書いたことになっていて、神が啓示した歴史だから、これを「天啓史観」という。
イエス・キリストの磔刑像
●初期のキリスト教は、AD64年の大火でローマの半分が焼失したとき、ネロ皇帝から放火の罪を着せられ、最初の大迫害に遭遇した。この惨事から逆に、キリストの再臨は間近という緊張の中で教線を拡大していく。ヨハネの黙示録第13章に登場する「先の獣」、つまり「反キリスト」「666」はネロを指していたと思われる。
また黙示録に出てくる大いなる娼婦バビロンとは、ローマ帝国である。
●しかし迫害の極致にありても「再臨」は起らず日増しに迫害は募った。
そこで登場したのが、モンタノスである。迫害が特に強かったAD150年代から170年代、今日のトルコにあるフリギアで、「私は旧約、新約に続く第3の聖書の預言者であり、同時に人間の間に下ってきた全能の神である」と称し、モンタノスは「殉教こそ神に至る最も確実な道であり、キリストの再臨を早める。従って殉教は悪との戦いであり、殉教者は『神の兵士』である」と主張した。
この「殉教教団」はたちまちフリギアから北アフリカ、シリア、トラキア、果てはガリアと、主に当時の西方世界へ、燎原の火のように広がった。自身が神なら、なぜ「再臨」を早める必要があるのか、モンタノスの教義は矛盾だらけで、当然異端とされた。しかし「第3の聖書」という考え方は、中世にも生き延び、17世紀にはクェーカー教徒、19世紀には再臨派の分枝、安息日再臨派などに受け継がれている。
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●ところで、現在、アメリカには「ハルマゲドン」説を説く人気テレビ説教師が多数存在する。
1985年10月に発表されたニールセン調査は「6100万ものアメリカ人が、自分たちの存命中に核戦争が起こることを防ぐ手立てが全くないと告げるテレビ説教師の番組をコンスタントに見ている」とした。人気テレビ説教師であるパット・ロバートソンの「700クラブ」(連日放映の90分番組)は1600万世帯、全米テレビ所有台数の19%が見ているという(その放送局は彼のものである)。
同様にジミー・スワガートは925万世帯、ジム・ベイカーは600万世帯……などなど、キリスト教原理主義をタレ流すテレビ説教師たちは、アメリカ社会では大人気である。
人気テレビ説教師である
パット・ロバートソン
彼は「キリスト教連合」「リージェント大学」
「CBN」などの設立によっても知られている。
近年は「イスラエルの回復」のために祈り、
イスラエル政府から表彰を受けている。
●彼らキリスト教原理主義者たちは、キリスト教が掲げる人間の原罪からの救済計画のシナリオのうち、「ハルマゲドン」を特別強調する。そしてこの「ハルマゲドン」説の核を作ったのは、キリスト教原理主義のスーパースターであるハル・リンゼイである。
ハル・リンゼイは1970年代に登場、リバーボートの船長からボーンアゲイン・キリスト教徒に転身。「キリストのための大学十字軍」の幹部として8年間全米の大学を巡回説教し、それをまとめた著書『今は亡き大いなる地球』が、全米で1800万部を売るベストセラーとなったのである。続編『1980年代 ~ 秒読みに入ったハルマゲドン』『新世界がくる』『戦う信仰』『ホロコーストヘの道』などいずれも人気が高く、アメリカ人の意識の底流を作り上げた。
(左)ハル・リンゼイ (右)全米で1800万部を売る
ベストセラーとなった彼の著書『今は亡き大いなる地球』
●キリスト教原理主義者の終末思想は、「キリスト再臨」が「千年王国」成立以前に起こるとする「千年期〈前〉再臨説」に集約されている。これと対立するのが、「キリスト再臨」は「千年王国」成立以後とする「千年期〈後〉再臨説」である。
いずれも古くから続いてきた終末思想だが、アメリカの場合は最初は「千年期〈前〉再臨説」が主流だった。魔女裁判を断行、ピューリタニズムの礎を築いたインクリースとコットンのメイサー父子が、指導者だった。
だが彼らに対抗して、ジョナサン・エドワーズが、「千年王国は新世界アメリカでこそ、ハルマゲドンなどの大量殺戮なしに、自然な過程で成立する」と主張し、「千年期〈後〉再臨説」を唱え始めた。南北戦争まではこの「千年期〈後〉再臨説」が多数を占めた。牧師らは同胞だけでなく、アフリカ、中国、日本など世界の非キリスト教地域に伝導、できるだけ多くの人々を改宗させれば、その「伝導の人海戦術」の成果によって、「千年王国」を地上に呼び込めると考えたのである。アメリカの伝導活動の世界展開は、「千年期〈後〉再臨説」を原動力にして初めて可能となったのだ。
●しかしその後、科学的進歩や物質的繁栄を肯定し、このまま穏やかに自然な形で「終末」に向かっていくとする「千年期〈後〉再臨説」は衰え、現実社会を「俗物」として切り捨て、苛烈かつ急激な「終末」を待望する「千年期〈前〉再臨説」が増加してきた。
現在、「千年期〈前〉再臨説」を主張するキリスト教原理主義者によれば、原罪からの人類救済計画のシナリオは、次の順に進展するという。
【1】ユダヤ王国再建 (彼らは1948年イスラエル建国で実現したと解釈)
【2】「携挙(ラプチャー)」の開始
【3】ハルマゲドン開始
【4】キリスト再臨
【5】「千年王国」開始
【6】千年経過後天国に移住
●一般のキリスト教団は、この救済計画を、イエスが見せた奇跡同様、象徴的に解釈するのだが、キリスト教原理主義者たちは文字通り解釈している。
例えば「携挙」とは、ハルマゲドン前に信者だけを天空に緊急避難させることで、ハル・リンゼイは高速道路を走行中に携挙が起こり、運転者を失った車がめちゃくちゃにぶつかり合い、携挙されなかった者らが無残に死んでいく光景を活写している。「千年王国」とはキリストを王に戴き、エルサレムを世界の首都とし、ハルマゲドンを生き延びた信者だけで構成するが、もう一度、サタンにたぶらかされた信仰の弱い信徒団の反逆があり、それを平定してから、キリストは地球をスクラップして別な天体(天国)へ信徒らを移住させるという。
また【1】と【4】の間隔は「一世代後」とあるだけなので、40年説と100年説に分かれ、ハル・リンゼイは前者だった。しかし前者はすでに1988年に訪れたので、ハル・リンゼイは90年代に「延期」した。
また【2】と【4】の間は「大艱難」と呼ばれ、3年半から7年といわれている。
「キリスト再臨」を期待してイスラエルを賛美する
アメリカのキリスト教原理主義者たち(陶酔状態)
●ところで、現在、キリスト教原理主義の指導者はイスラエルの政府要人と繋がっている。いわゆる「シオニスト同盟」である。
元来キリスト教は、イエスを殺したユダヤ教徒を憎み続けてきたので、ひと頃ではユダヤ教徒の国と連携することなど思いもよらなかった。しかしイスラエル建国でユダヤ国家再建というシナリオ【1】が実現したと解釈してからは、この一派のイスラエル傾斜は急ピッチとなった。
そして、1967年の第三次中東戦争(6日戦争)でイスラエル軍が圧倒的な強さを世界に見せつけると、アメリカのマスコミは、「無敵のイスラエル人」とか「彼らは間違いを犯すはずがない」といって騒ぎ立てて、ますますキリスト教原理主義者とイスラエル(シオニスト・ユダヤ人)は親密な関係になった。
なにしろ、「ハルマゲドン」はイスラエルの「メギドの丘(ハル・メギド)」が戦場となるのだ。ハル・リンゼイによれば、ここヘ旧ソ連・東欧連合軍、アラブ・アフリカ連合軍、中国が率いるアジア連合軍、「反キリスト」が率いるヨーロッパ連合軍が逐次侵入しては、神の降り注ぐ核兵器で壊滅させられるのである。途方もない巨大な軍勢を迎え撃つイスラエルのユダヤ人も3分の2は壊滅、残った3分の1がキリスト教徒に改宗、「千年王国」の臣民となる。
伝えられるところでは、イスラエルは現在、大量の核爆弾を保有しているが、キリスト教原理主義の信徒の中には、イスラエルがもっと核兵器を持ってほしいと答える者が少なくないという。
1994年11月17日『朝日新聞』
キリスト教原理主義者たちは、近い将来に「人類最終戦争」が
イスラエルの「メギドの丘(ハル・メギド)」で起きると信じている。
そして、その後に「キリストの再臨」が起きると信じている。
彼らの独自の聖書解説によれば、全世界にいるユダヤ人が
イスラエルに戻るまで預言は全うされないという。
●アイラ・チャーナスは著書『ドクター・ストレンジゴッド ─ 核兵器の象徴的意味』の中で言う。
「終末思想はキリスト教の中核をなすので、これは当然西欧文明の中核的要素となる。西欧文化に触れる場合、この終末思想に則った歴史観に触れずに済ますわけにはいかない。
単純な終末思想を基礎にしたテレビ映画『スター・ウォーズ』が、今日最も有名な作品となったのは偶然ではない……」
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●さて最後になるが、注意してほしいのは、「終末思想」はユダヤ教やキリスト教だけでなく、イスラム教にもあるという点である。
イスラム教も痛烈な終末思想を持つ宗教である。コーランには「復活の日」という言葉が70回、「その日」が40回出てくるのを中心に、いろいろな形で「終末」が言及されている。
また、「艱難(かんなん)」こそ「神の国」を接近させてくれるという倒錯が、それぞれの宗教の根幹にある。
コーランを掲げるイスラム原理主義者
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