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作成 2004.1

 

謎に満ちたミゲル・セラノの“秘教的歴史観”

 

~ヒトラーはヴィシュヌ神の10番目の化身(アヴァタール)だった!?~

 

●ケンブリッジ大学出身でコルゲート大学のジョスリン・ゴドウィン教授は、音楽、哲学、宗教学、神話学、文化人類学から神秘主義まで造詣が深く、著書に『キルヒャーの世界図鑑』や『古代密儀宗教』、『星界の音楽』などがある。

 


(左)ジョスリン・ゴドウィン教授 (右)彼の著書
『北極の神秘主義 ─ 極地の神話・科学・象徴性、
ナチズムをめぐって』(工作舎)

 

●このゴドウィン教授は「ナチスの謎」に関して、著書『北極の神秘主義 ─ 極地の神話・科学・象徴性、ナチズムをめぐって』(工作舎)の中で次のように語っている。

〈左道〉を単なる悪であり『黒魔術』であると断罪するのはあまりにも浅薄にすぎる。確かにナチスの運動には、他者に害をなす目的のオカルト的術式という意味での黒魔術が働いていた。

ニュルンベルク大会はその現われのひとつであり、『水晶の夜』はその効果のひとつであり、そしてナチスの指導者の敗北と恥辱はその不可避的な反作用であった。

とはいうものの、その政治活動が如何に不埒なものであろうとも、この男たちの中には自らの生き方に霊的な次元をもち、独善的ではあってもある意味では信仰深いと言えなくもないような者もいたのである。」


「この種の霊性(あえて「霊性」という言葉を使うなら)は、左右両道を邪道に引きずり込むものである。その禁欲主義において、それは〈右道〉的傾向をもつ。

彼らは肉食、タバコ、ドラッグやアルコールを忌避し、性欲を抑制し、倫理規範を守り、あらゆる意味での清潔を求める。ヒトラーがそうした事柄に関心をもっていたことは有名な事実である。」


〈右道〉に付きまとう罪は自尊心と、自らを他の人間から隔絶させる傾向である。自分の人種の源は天にあり、他の人種は汚い土から生じたなどという主張は、まさにその典型であろう。

より熱狂的に清浄さを求めれば求めるほど、邪魔になる人への仕打ちはひどいものとなる。

ただひとりアーリア人のみが〈解脱〉への道を歩むことができるのであれば、血や人種や身分によってこの高貴な運命から外された者は不運な邪魔物以外の何物でもなく、ただ忌避するか、奴隷にするか、根絶やしにする他はない。一方、支配種族はその情け容赦のない瞳に郷愁を湛えて、そのヒュペルボレア原郷の冷たい清浄さを希求しておればよいのである。」



●ゴドウィン教授は同じ本の中で、「ナチ式の霊性のスポークスマンの中で最も街学的にして歯切れのよい人物」として、ミゲル・セラノの名を挙げている。

 


(左)ミゲル・セラノ (右)南米チリの国旗

彼は“秘教的歴史観”の持ち主で、ヒトラーを霊的に崇拝していた。
チリ政府の大使や様々な国際的委員会のメンバーとして活躍し、
戦後が生んだ最大のナチス擁護者とも言われている。

 

●このドイツ人の血を引くミゲル・セラノは、南米チリの在インド(1953~1962年)、在ユーゴスラビア(1962~1964年)、そして在オーストリア(1964~1970年)の大使を歴任し、様々な国際的委員会のメンバーであり、彼はその地位ゆえに、多くの傑出した人と面会した。

たとえばヘルマン・ヘッセとC・G・ユングとの交際については『C・G・ユングとヘルマン・ヘッセ ─ ふたつの友情の記録』に書かれており、英語で書かれた彼の本はこれ以外に6冊あり、それぞれヨガとタントラ、神秘的愛、そして叡知の求道者として訪れたインド、南米、南極への旅などをテーマとしている。


●このミゲル・セラノは、日本では、かの有名な落合信彦氏の『20世紀最後の真実』(集英社)で、“謎の男”として2度ほど登場しているので、知っている人もいるだろう。

彼は政治的な力をもつナチス主義者であり、同じ本に登場するエルンスト・ジーグラー(=ウィルヘルム・フリードリッヒの影武者役として登場するエルンスト・ツンデル=カナダ在住のネオナチ)とは比べ物にならないほど大物のナチスシンパであり、要注意の男である。

 


(左)落合信彦氏の『20世紀最後の真実』(集英社)
(中)エルンスト・ツンデル=カナダ在住のネオナチ。
落合信彦氏の本の中で、ミゲル・セラノ(右)は
“謎の男”として2度ほど登場している。

 

●ゴドウィン教授はこのミゲル・セラノについて、次のように語っている。

「セラノほどの大物が相手ともなると、その彫心鏤骨の詩的な作品の背後にある真実を知ることが何よりも重要となってくる。それは600ページに及ぶ哲学的総括『最後のアヴァタール、アドルフ・ヒトラー』(1984年)に見いだされる。

現代トゥーレ哲学の宣言として、この書に比肩しうるものは、何語で書かれたものの中にもないであろう。この表題はまったく字義通りに解釈すべきでものである。」


「セラノによれば、ヒトラーはヴィシュヌ神の10番目の化身(アヴァタール)、すなわちカルキ・アヴァタールであり、カリ・ユガに終わりをもたらし〈新時代〉の到来を告げるために受肉した存在である。

彼は末法の世のトゥルクあるいは菩薩であり、すでに解脱した身でありながら人類のために自発的に下生した。ゆえに、彼はあらゆる批判を超越した存在である。

ここで『存在である』と現在形を用いたのは、セラノがヒトラー生存神話を堅く信じているからである。ヒトラーはおそらく1945年にベルリンを発ち、地下世界で“不可視の存在”となって、顕教的な戦争の過ぎ去った今、そこから“秘教的な戦争”を指示し続けている、と彼は考えている。」


「オットー・ラーンによれば、セラノは『新アーリア人』を、世俗を拒否した中世のカタリ派(『清浄なる者』)の後継者と考えていた。彼は、アーリア人の戦士はもともと禁欲的であり、性のエネルギーや分泌物を霊的なそれに変容させるのだ、と説く。」

「セラノの秘教的歴史観は、ある意味では、J・R・R・トールキンの『シルマリリオン』や聖書の『創世記』、あるいは『シークレット・ドクトリン』に匹敵する叙事詩として評価することができる。信じるにせよ信じないにせよ、その視野と全体の一貫性は驚嘆すべきものではある。だが、この書を読むときは心すべきだということが、徐々に明らかになるだろう。〈中略〉

セラノによれば、ヒトラーの侵略の初期段階においては、彼の意図は単にアーリア人、すなわち〈ヒュペルボレア人〉の古代の領地を回復しようとするものにすぎなかった。ルドルフ・ヘスの1941年の英国への単独飛行はこの努力の最終段階であり、イギリスの『黄金の暁』と呼ばれる結社との新たな接触によって、ドイツ人とそのアーリア系の従兄弟であるイギリス人とを統一し、人種の純化を推進するためのものであった。

だがこの使命が明らかに失敗に終わると、ヒトラーはアヴァタールとしての宿命に着手した。すなわち国際的ユダヤ人と〈デミウルゴス〉に対する、そしてその最強の創造物である共産主義ソヴィエト連邦に対する全面戦争である。


「ほとんどの人は知らないが、大戦中のヒトラーの主要な精力は『魔術的現実』の実験に注がれていたという。それはたとえば円盤の製造、物質の透明化、潜水艦による北極探検、チベットとの慎重な接触、そして北極あるいは南極の要塞における先端科学の探求である。その後、ベルリン陥落と共に彼はアルベルト・シュペーアの設計によるブンカーとテンペルホフ離着陸場を結ぶ地下道を通って脱出し、もうひとつの世界に達したという。」

「このような文章を、UFOや地球空洞説の熱心な支持者とナチス修正主義者を結び付ける与太話、たとえばエルンスト・ツンデルの『UFO第三帝国最後の秘密』や『秘密のナチ極探査』などの同類と見なすことはできる。

だが、秘教の分野を完全に掌握し、そのうえ絶大な世俗権力をも合わせもつひとりの男がそれとまったく同じことを言ったとなると話は別である。

セラノの最新の著書は『国家社会主義 ─ 南米における唯一の解決』であるが、これを読むと、『逆転』を書いたマルタン神父は関係諸国におけるネオ・ナチの活動を予感していたのではないかという不気味な感じにすら襲われるのである。」

 


ミゲル・セラノの著書に描かれた神秘主義的なイラスト

 

●ところで、ミゲル・セラノに詳しい某氏は次のように述べている。

「落合信彦が書いた『20世紀最後の真実』の最大のミステリーは、この本の中に、ミゲル・セラノという大物のナチスシンパが登場していて、写真も掲載しているのに、落合信彦も落合信彦を中傷するジャーナリストもミゲル・セラノの存在に気づいていない事だ。

ミゲル・セラノは、おそらく戦後が生んだ、最大のナチス擁護者である。

駐オーストリア大使だったとき、セラノは“ナチ・ハンター”サイモン・ヴィーゼンタールのチリへの入国ビザ取得を妨害しつづけたし、そのとき、レオン・デグレレ、オットー・スコルツェニーなどの元ナチスの大物と友情関係を築いている。

それだけではない。神秘主義、とりわけヨガ、仏教に興味を持つセラノは、晩年のユングとヘルマン・ヘッセと親密な交友関係を結び、ユング研究の貴重な資料となった著作を多く残した。また、駐インド大使だった時は、ネルーやガンディー、ダライ・ラマと友情関係を結んだ。

チリに戻ってからのセラノは、当地の元ナチスやピノチェト将軍らと親密な関係を結び、イスラエルの殺し屋から、元ナチスの友人を守るために尽力し、ロンドンでのピノチェト逮捕後、軍事独裁政権でダーティーな仕事にかかわった同志たちや元ナチスの友人たちに向けて、警戒するように注意を呼びかける声明も出している。

彼は、著書『最後のアヴァタール』などで、ヒトラーを霊的に崇拝する思想を記し、チリのネオナチ、ネオファシズム、国家社会主義運動の思想的柱と言われている。そのセラノが登場しているのだ。なのに気づいていない……」

 

1980年代に「ノンフィクション」として出版された
『20世紀最後の真実 ─ いまも戦いつづけるナチスの残党』(集英社)は、
あまりにも突飛な内容だったため、その信憑性をめぐって長らく大きな話題になった。
明らかにおかしい記述があるために今ではすっかり「トンデモ本」扱いされているが(笑)、
本書で著者が報告した「エスタンジア」は、実在の元ナチスのドイツ人パウル・シェーファーが
創設した「コロニア・ディグニダ」であることが、ピノチェト政権の崩壊後に明らかに
なっている。また本書で著者がインタビューした元ナチ党員「フェニックス」
の正体については諸説あり、今も様々な憶測を呼んでいる。

 

 



── 当館作成の関連ファイル ──

『20世紀最後の真実』の「エスタンジア」の正体 

 


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